大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

岐阜地方裁判所 昭和43年(行ウ)3号 判決

中津川市本町二丁目一番二号四ツ目川会館ハウス内

原告

中津川勤労者音楽協議会

右代表者運営委員長

長瀬信夫

右訴訟代理人弁護士

大矢和徳

原山剛三

佐藤典子

郷成文

中津川市西宮町二番二号

被告

中津川税務署長

八尾栄一

右指定代理人

松沢智

加藤元人

松下劫

伊藤新吉

郡保

高橋多嘉司

平野由男

右当事者間の昭和四三年(行ウ)第三号課税処分取消請求事件について当裁判所は次のとおり判決する。

主文

本件訴を却下する。

訴訟費用は、原告の負担とする。

事実

第一、申立

一、原告

被告が原告に対して昭和四二年五月二四日付入場税決定および加算税賦課決定通知書による昭和四二年一〇月ないし一二月分の総額一九、〇〇〇円(内一、八〇〇円は加算税額)の入場税決定および加算税賦課決定処分を取消す。

訴訟費用は、被告の負担とする。

二、被告

主文同旨

第二、主張

一、請求原因

(一)  原告は中津川市及びその周辺に居住、勤務もしくは通学する音楽愛好者のサークルを単位として組織する団体であつて、会員の自主的な企画運営により健全な音楽鑑賞力、音楽知識をたかめ、もつて豊かな情操と優れた人間性を養い、会員の日常生活を明るく豊かにする音楽文化の普及と発展をはかり、国民音楽を創造することを目的とするもので、法律的には人格なき社団である。原告は右目的達成のため定期的な音楽会開催(以下単に例会活動という)等の活動を行なつているが、右例会活動はサークル活動を基盤として、原告の会員が会費を拠出し、会員の総合的意思に基き企画をなし音楽、舞踊を上演して会員各自が鑑賞するものであつて、一般に行なわれている個人又は会社等が音楽舞踊を興行し不特定多数の第三者より入場料金を徴集して鑑賞せしめる営業とは本質的にその性格を異にするものである。しかるに被告は原告の例会活動を興行とみなし、昭和四二年一〇月ないし一二月になした原告の例会活動に対し、昭和四二年五月二四日総額一九、〇〇〇円(内一、八〇〇円は加算税額)の入場税決定および加算税賦課決定処分をなしたが被告の右処分は次の理由により違法である。

1 例会活動によつて催された音楽舞踊は第三者たる「多数人に見せまたは聞かせるもの」ではない、従つて入場税法第二条第一項に規定する「催物」ではない。

2 例会活動は前述のとおり会員の手によつて企画されるものであるから、会員と別個に音楽舞踊を上演する主体が存在するものではない。従つて原告は入場税法第二条第二項に規定する「主催者」ではなく、主催者は存在しないものであるから入場税法第二条第三項に規定する「入場税」「入場料金」なるものは存在しない。

3 原告の会員の会費は会員たる身分を取得しまたはその身分を存続させるために拠出されるものであつて、直接音楽舞踊を鑑賞するために拠出される入場の対価でなく、従つて入場税法第二条に規定する入場の対価たる入場料金にあたらない。又会費は原告が会員から独立した人格でないところから、会員の委任を受けた代理人が交付を受けて保管するものであり、入場税法第二条に規定する入場者から「領収される」ものではない。

4 原告は権利能力なき社団であるから一切の権利を取得し、または義務を負うことのできない存在であり、従つて租税法上も租税債務の主体たり得ないものであつて租税義務能力を有しない。

(二)  よつて前記被告の入場税決定および加算税賦課決定処分は違法であるからこれの取消を求める。

二、被告の本案前の抗弁

(一)  本件訴は原告が訴外名古屋国税局長の本件課税処分にかかる審査請求の裁決書を受領した日である昭和四三年二月二一日から二ケ月を経過した昭和四三年五月二二日に提起されたものであるから不適法な訴として却下さるべきである。

右審査請求裁決書謄本は宛名人を代表者「近藤武典」として送達されたものであるが、送達当時右近藤武典は代表者運営委員長を辞任していたとしても、原告はその旨の届出を何らなしていないのであり、被告においてその事実を知ることあたわざるものであつたから、審査請求書記載の代表者近藤武典を名宛人として送達したものであり、しかも裁決書謄本は原告の事務所において送達したのであつて、その当時の代表者は右送達を知りうべき状態にあつたものであるから送達は有効になされたものというべきである。

(二)  又右近藤武典が、原告が審査請求をなした当時すでに代表者たる資格を失つていたとすれば、そもそも原告の審査請求自体原告自身のなした審査請求と言い得ないものといわざるを得ないから、審査請求を経ていないことになりよつて国税通則法第八七条行政事件訴訟法第八条に違反し、不服申立の前置きを欠き、本訴は不適法却下を免れない。

(三)  又原告が当時代表者たる資格を失つていた近藤武典の名で審査請求をしたものであれば、その表示を信頼した審査庁が代表者の記載を誤ることは必然であり、これをとらえて審査請求の裁決自体代表者の記載を誤つた決定であるから無効であると主張することは、原告自らのなした表示に反する主張であつて禁反言の法理にもとるのみならず信義誠実の原則にも違反するものといわなければならない。

(四)  いずれにしても原告の本件訴は不適法であるから却下すべきである。

第三、当裁判所は弁論を被告の本案前の抗弁が理由ありや否やの点に制限した。

第四、証拠

(一)  原告

甲第一号証を提出し、証人山本正博の証言を援用、乙第一号証の一、二の成立は不知、その余の乙号証の成立を認める。

(二)  被告

乙第一号証の一、二、第二、第三、号証、第四号証の一ないし三、および第五号証の一、二を提出、甲第一号証の成立は不知。

理由

一、先づ本件訴が適法であるか否かについて判断する。

原告は音楽愛好者のサークルを単位として組織する団体であつて法人格がないことは被告において明らかに争わないところ、証人山本正博の証言により真正に成立したものと認められる甲第一号証、その方式および趣旨により公務員が職務上作成したものと認められるから真正な公文書と推定すべき乙第一号証の一、二、乙第二、第三号証、乙第四号証の一ないし三、および証人山本正博の証言、弁論の全趣旨によれば、本件訴の前提たる審査請求を、当時原告の運営委員長であつた長瀬信夫において、請求人を原告の会員全員、代理人を従前の委員長たる近藤武典として、行政不服審査法第一一条第一項により右近藤武典を原告の会員全員によつて唯一の代理人として互選された旨の証明書を添付してなした結果審査庁は、昭和四三年二月二〇日右審査請求棄却裁決書謄本を書留郵便にて受取人を中津川勤労者音楽協議会近藤武典として原告方事務所に発送し、右郵便は翌二一日原告方事務所に到達し受領されたこと、原告においては運営委員長が、原告を代表するものとされていること、近藤武典が本件審査請求にあたつて原告の会員全員から代理人として互選された事実はないことが認められる。

二、右事実によれば本件審査請求は請求人の真実の代理人でないものからなされたものではなく、請求当時の原告代表者たる長瀬信夫においてなしたものであるからこれを実質的にみれば原告の真実の審査請求であるといえるが、一方原告は右審査請求に当つて代表権限も原告の会員全員から互選された行政不服審査法第一一条第一項による総代としての資格もない近藤武典を代理人と表示し、同人が原告の会員全員によつて互選せられた唯一の代理人である旨の虚偽の証明書を添付した以上、それを信頼した審査庁において右審査請求に対し近藤武典を原告会員の総代として裁決をなし、同人宛送達したとしても、原告において、右裁決の総代としての名宛人がその資格のない近藤武典としてなされていることをもつて、裁決自体あるいはその送達の効力を争うことは、信義則上許されないものというべきである。そして原告が右の理由により本件裁決自体あるいはその送達の効力を否定し得ない以上、本件裁決は原告に対し有効になされかつ有効に送達されたものというべきである。

三、そこで原告の本件訴の提起が、行政事件訴訟法第一四条の三カ月の出訴期間内になされたものであるかどうかを考えてみると、本件裁決書謄本は、昭和四三年二月二一日近藤武典宛ではあつたが、原告方事務所を送達場所として書留郵便にて送達、受領されたものであること前認定のとおりであつて、他に何らの主張立証のない本件にあつては、右裁決書謄本が受領された日である昭和四三年二月二一日、原告の当時の代表者である運営委員長長瀬信夫、すなわち原告が、本件裁決のあつたことを知つたものと推定すべきである。

そして訴状に押捺された岐阜地方裁判所民事部の受付印によれば、本件訴は昭和四三年五月二二日に提起されたものであること明らかである。従つて本件訴は原告が本件裁決のあつたことを知つた日の翌日たる昭和四三年二月二二日から行政事件訴訟法第一四条の出訴期間三カ月を経過した後に提起された不適法な訴であるといわねばならない。

よつて原告の本件訴は不適法として却下することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 丸山武夫 裁判官 川端浩 裁判官 園田秀樹)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例